大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和55年(行ツ)88号 判決

上告人 別府市

代理人 菊池信男 松村利教 大島崇志 池田直樹 大平武男

被上告人 荒金和子

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。

原審及び当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人柳川俊一、同篠原一幸、同岩渕正紀、同前川典和、同藤沢堯、同外山健一、同山本草平の上告理由について

一  原審が確定したところによれば、(1)別府国際観光温泉文化都市建設計画石垣第二土地区画整理事業の施行者である上告人は、道路新設等の工事を施行するため、昭和四八年九月一三日、被上告人に対し、右工事の対象地区内に存する被上告人所有の大分県別府市大字南石垣字井田ノ下一三八四番山林三九九・九九平方メートル(以下「本件従前地」という。)につき街区番号八四―一地積三四二・〇〇平方メートル(以下「本件仮換地」という。)を仮換地に指定する処分をした(以下「本件仮換地指定処分」という。)、(2)しかし、被上告人が本件仮換地を使用しうるためには、上告人において同仮換地の所有者、更にはそのまた仮換地先の土地所有者との立退き交渉を行う必要があつたため、上告人は、被上告人に対し、本件仮換地うち二〇一・二〇平方メートル(全体の約五九パーセント)の部分について使用収益開始の日を追つて通知する旨定めたが、その使用収益開始の時期についてはめどがたつていなかつた、(3)本件仮換地指定処分は道路新設等の工事のための具体的必要に基づいてされたものであり、右工事は、昭和四九年三月三一日までに完工する予定で昭和四八年に着工され、本件従前地周辺を除いてはほとんど完了したのであるが、本件従前地周辺だけは右立退き交渉が難航しているため未だ着工されずに残されている、(4)本件従前地は現況宅地であつて、同地上には被上告人居住の家屋が建築されているが、本件仮換地のうち前記部分の使用収益開始の日が追つて通知とされているため、被上告人は右家屋を本件仮換地上に移築することができず、同家屋は本件従前地上に存置されたままとなつている、(5)上告人は、本件仮換地指定処分後六年余を経過しても本件仮換地のそのまた仮換地先の土地所有者との間で立退きの交渉に入つているだけで、未だに本件仮換地の前記部分の使用収益開始時期について目途がたつていない、というのであり、右事実関係は原判決挙示の証拠関係に照らしてこれを是認することができる。

原審は、右事実関係のもとにおいて、本件仮換地のうちの約五九パーセントを占める二〇一・二〇平方メートルがその使用収益開始の日につき目途のたたないままこれを追って通知する旨定められたため、被上告人は本件仮換地を本件従前地におけると同様にその居住家屋の敷地として使用収益することができない状況になつているから、本件仮換地指定処分は土地区画整理法(以下「法」という。)八九条一項所定の利用状況につき照応しないものとして違法であることを理由に、被上告人の右処分取消請求を認容した。

二  仮換地の指定がされると、従前地の権利者は、仮換地指定の効力発生の日から換地処分の公告の日まで当該仮換地につき使用収益権を取得する一方、従前地についての使用収益ができないこととなるのが原則であるが(法九九条一項)、法九九条二項によると、仮換地を指定した場合において、その仮換地に使用収益の障害となる物件が存するときその他特別の事情があるときは、施行者はその仮換地について使用収益を開始することができる日(以下「使用収益開始日」という。)を仮換地指定の効力発生日とは別に定めることができるとされており、この場合には、従前地の権利者は定められた使用収益開始日までの間仮換地を使用収益することができないことになる。これは、仮換地上に建物等が存在するためそれが移転除却により撤去されるまで時日を要することが当然予想されるような場合にまで、仮換地指定の効力発生日から直ちにこれを使用収益しうるという原則を貫くことは、建物等の権利者と仮換地の被指定者との間に無用の紛争混乱を生ずるおそれがあることから、これを未然に防止するとともに、併せて区画整理事業の円滑な実施を図ることを目的としたものであつて、従前地の権利者が、右使用収益開始日が別に定められたため、その間、仮換地及び従前地のいずれについても使用収益することができなくなつたことにより損失を受けた場合においては、施行者はその者に対して通常生ずべき損失を補償しなければならないこととされている(法一〇一条一項)。ところで、右の使用収益開始日は確定日をもつてこれを定めることが望ましいといえるが、施行者において、仮換地が使用収益可能な状態となる日、即ち仮換地の使用収益を妨げる事情を除去しうる日時を、仮換地指定の当初から確定的に予定することが困難な場合には、仮換地指定の際いつたんその使用収益開始日を追つて定める旨通知し、その後、その使用収益開始日を確定しうる段階で具体的な日を定めるという方法をとることも許されると解するのが相当である。けだし、使用収益開始の時期を確定的に予定することが困難であるからといつて、その予定のたつまで仮換地の指定を待つことは、勢い区画整理事業の実施を遅延させ、事業の円滑な進捗を確保することが困難となり、使用収益開始日を定めてする仮換地指定を認めた法の趣旨にそわない結果となるし、たとえ右のような方法がとられたとしても、従前地の権利者には前記損失補償を受けうる途が開かれているのであつて、法九九条二項の規定がかかる使用収益開始日の定め方を禁止しているとまで解することはできないからである。したがつて、仮換地に使用収益の障害となる物件が存するためこれを除去する必要がある場合に、施行者においてその除去の時期を確定することができず、仮換地の使用収益開始の時期について目途がたたない場合であつても、区画整理事業の遂行上仮換地を指定する必要がある以上、使用収益開始日を追つて定めることとして仮換地の指定をすることも違法とはいえないというべきである。確かに仮換地の指定も法八九条所定の照応の原則を考慮してしなければならないのであるが(法九八条二項)、右のように法が施行者において仮換地指定の効力発生日とは別に使用収益開始日を定めることができるものとし、従前地の権利者が右使用収益開始日までの間当該仮換地の使用収益をすることができないこととなる場合のあることを認めていることからすれば、使用収益開始日が別に定められたために仮換地を使用収益することができないからといつて、当該仮換地指定が法八九条一項所定の利用状況につき照応していないということができないことは明らかであり(その利用状況が照応しているかどうかは、当該仮換地の使用収益開始時を前提に判断すれば足りる。)、このことは、使用収益開始の時期について目途がたたないため、使用収益開始日を確定することなくこれを追つて定める旨通知された場合であつても何ら異なるところはないというべきである。

これを本件についてみるに、原審の確定した前記事実関係によれば、上告人は、区画整理事業の遂行上道路新設等の工事を施行するため本件仮換地指定処分をしたが、被上告人が本件仮換地のうち前記部分を使用収益するためには同仮換地の所有者の立退きが必要であつたため、法九九条二項に基づき同部分について使用収益開始日を別に定めることとし、ただその使用収益開始の日について確定することができなかつたことから、これを追つて通知する旨定めたというのであるから、その結果、被上告人が本件従前地上の家屋を本件仮換地上に移築することができず、使用収益開始の日が確定されないまま本件仮換地を同家屋の敷地として使用収益することができない状況にあるからといつて、前記のとおりこれをもつて本件仮換地指定処分に照応原則違反等の違法があるとすることはできないというべきである。

三  そうすると、右と異なる見解に立ち、使用収益開始日を追つて通知する旨定められた結果本件仮換地の相当部分が使用収益できない状況にあるとの一事をもつて、本件仮換地指定処分が利用状況の照応を欠き違法であるとした原判決には、仮換地指定に関する法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべく、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点を指摘する論旨は理由があり、原判決中本件仮換地指定処分の取消請求を認容した部分は破棄を免れない。そして、使用収益開始の時期の目途もないまま仮換地を指定したことを理由に本件仮換地指定処分の違法をいう被上告人の主張が失当であることは、前記説示に照らして明らかであり、また、本件仮換地指定処分につき被上告人が主張するその余の違法事由はいずれも理由がないとした原審の認定判断は正当であるから、結局、本件仮換地指定処分の取消しを求める被上告人の請求は失当であり、これを棄却した第一審判決は正当であつて、これに対する被上告人の控訴は理由がないものとして、これを棄却すべきである。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下忠良 大橋進 牧圭次 島谷六郎 藤島昭)

上告理由

(上告理由第一点)

原判決には、以下に述べるとおり、土地区画整理法(以下「法」という。)八九条一項、九八条一、二項、九九条一、二項、一〇〇条の二及び一〇一条一項の解釈、適用を誤った違法があり、この法令違背が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一 原判決は、上告人が大分県別府市大字南石垣字井田ノ下一三八四番の土地(以下「本件従前地」という。)の仮換地として指定(以下「本件仮換地指定」という。)した街区番号八四―一地積三四二・〇〇平方メートルの土地(以下「本件仮換地」という。)のうち二〇一・二〇平方メートルが使用禁止とされ、同部分の使用収益開始の日は追って通知する旨指定されたため、被上告人は同部分を使用収益することができない状況にあると判示した上、このような仮換地指定は、仮換地を従前地と同様に使用収益できる状況におくものではないから、法九八条二項によつて仮換地指定の際にも考慮すべきものとされている法八九条一項所定の利用状況の照応を欠くものとして違法である、と結論している。

ところで、仮換地指定がなされると、従前地の権利者は、原則として、その効力発生の日から換地処分公告の日(法一〇三条四項)までの間仮換地について使用収益権を取得する代わりに、従前地についての使用収益権は失うことになる(法九九条一項)が、仮換地に使用収益の障害となる物件が存するときその他特別の事情があるときは、その使用収益開始の日を別に定めることができるとされており(同条二項)、この場合には仮換地指定を受けてもその日以前は当該仮換地を使用収益することはできないことになる。

そして、法は特に仮換地の「使用禁止」なる措置を明文をもつて規定しているわけではないから、冒頭に掲記した、使用禁止うんぬんなる原判決の判示は、法の規定に即したものではなく、右判示は、関係条項に照らしてみれば、本件仮換地のうち二〇一・二〇平方メートルについては、法九九条二項に基づき、仮換地指定の効力発生の日とは別に使用収益開始の日を定めることとされ、その日は追つて通知する旨本件仮換地指定の通知にあわせて通知されたことをいう趣旨であると理解すべきである。

そうすると、原判決の当否の検討に当たつては、まず、法九九条二項に基づき効力発生の日とは別に使用収益開始の日を定めることとしてなされた仮換地指定の場合には、法九八条二項により考慮すべきこととされている法八九条一項にいう利用状況等の照応についてはどのように考えるべきかという問題であるといわなければならない。

二 換地処分は土地区画整理事業における最終的かつ中核的な行政処分であるが、換地処分を行うには必ず換地計画を定め、それに基づかなければならないこととされている(法八六条一項)。ところで、換地計画には換地の各筆ごとの明細、各権利別清算金の明細等法八七条の所定の細目にわたる事項を定めなければならず、しかもそれを確定するまでには法八八条に基づき当該計画の縦覧、それに対する意見書の提出・処理等の手続を経る必要がある上、換地処分は原則として換地計画に係る全域について工事が完了した後でなければすることができないこととされていること(法一〇三条二項)等のために、実際に換地処分が行われるのは、一般に、事業が開始されてから相当の長年月を経た後にならざるを得ない。

そこで、法は、権利者の地位の不安定を除去し、工事の円滑な施行を図る等の観点から仮換地指定の制度を設け、換地処分を行う前においても、法九八条一項により、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合(以下、便宜上「前段の仮換地指定」という。)、又は換地計画に基づき換地処分を行うため必要がある場合(以下、便宜上「後段の仮換地指定」という。)、には、従前地の権利者に対し仮換地を使用収益させる代わりに、従前地の使用収益を停止することができることとしている。

仮換地指定は、法的な性質としては、換地処分までの間の暫定的なものではあるが、右に述べたような制度の趣旨に照らし、できる限り換地処分を見通して行うことが要請され、支障がないかぎり仮換地をそのまま本換地に移行させるように運用するのが望ましい。このことは、特に換地計画に基づく後段の仮換地指定については当然であるが、前段の仮換地指定についても、基本的には同様であるといつてよい。

すなわち、前段の仮換地指定の制度が後段のそれとは別に設けられたのは、土地の区画形質の変更、公共施設に係る工事のため必要がある場合には、換地計画決定前であつても(前述したように、前段の仮換地指定の場合であつても、いずれ換地処分の前には換地計画を定めなければならない。)仮換地指定ができることとして右工事の円滑な施行を図ろうとするところにその実質的な意味があるのであつて、この仮換地指定が換地処分とは全く連結しない性質のものであるというような趣旨からではない。したがつて、前段の仮換地指定の場合であつても、仮換地がそのまま本換地に移行するのは何ら差し支えないし、むしろ、それが前述した法の要請に合致しているといつてよい。実際、前段の仮換地指定の場合においても、仮換地と全く別の場所に本換地が定められるというのは、権利者の地位の可及的速やかな安定という観点からしても望ましいことではないし、現に全国の各都市で行われている土地区画整理事業においては、前段の仮換地指定の際換地計画に定めるべき事項の概略を決めた上で、支障のない限り仮換地をそのまま本換地に移行させるように運用されているのが通常である(時に前段の仮換地指定が「一時利用地的」仮換地指定である旨説明されることがあるが、これは、右に述べた意味においては、必ずしも正確な説明とはいえない面がある。)。

三 法九八条二項は、仮換地指定に際しては換地計画において定められた事項又は法の定める換地計画決定の基準を「考慮」しなければならない旨規定している。その実質的な趣旨は、右二において考察したところからすれば、仮換地指定に際しても、換地処分の場合に準じて所定の基準等に照らし公正、適切な配慮等を行い、それによつて、できる限り円滑に仮換地から本換地に移行できるように配慮すべきであるというところにあると解されるが、この規定は、反面では 仮換地指定に際しては換地処分の場合ほど所定の基準等への適合につき厳格さを要求されないという趣旨をも示しているといつてよい。このことは、仮換地指定が本来換地処分までの間の暫定的な措置であるという点から当然のことであるが、右規定上も「考慮」という文言からして明らかであるといつてよい。

したがつて、仮換地と従前地との利用状況等の照応の有無を判断する場合には、土地区画整理事業開始時の従前地の状況と仮換地指定時の仮換地の状況とを厳格に対比するのではなく、仮換地指定時において見通される以後の状況をも勘案した上で一応の照応があるか否かを問題にすれば足りるものと解される。例えば、従前地は舗装道路に面していたが、仮換地の前面道路はいまだ舗装工事中であるというような場合には、その工事完了後の状況を想定して照応の有無を判断して差し支えないと解される。

四 法九九条二項は、前述したとおり、仮換地に使用収益の障害となる物件が存するときその他特別の事情があるときは、その使用収益開始の日を仮換地指定の効力発生の日とは別に定めることができることとしている。このような制度が設けられているのは、既成市街地等を対象とする土地区画整理事業においては、一般に仮換地に指定しようとする土地が更地である場合は少なく、その上に既存建物等使用収益の障害となる何らかの物件が存することが多いが、このような場合にその土地が事実上収益可能な状態になるまでは仮換地指定をなし得ないとすれば、ごく限られた狭い範囲の土地につき順次一か所ずつ仮換地を指定していくというようなやり方しかできなくなつてしまい、そのために土地区画整理事業を著しく長期化させ、また権利者間にいたずらに紛争・混乱を生じさせ、ひいては事業の実施自体を不可能とするおそれがあるので、このような事態を防止し、もつて土地区画整理事業の円滑な進捗を図ろうとする趣旨によるものである。使用収益開始の日が別に定められることとなると、従前地の権利者はそれに代わる仮換地の指定を受けてもその日以前は仮換地を使用収益することができないという不利益を受けることになるが、仮換地指定の効力発生の日から使用収益開始の日までの期間については法は特に限定を付しておらず、それによつて生ずる損失については補償をもつて対処することとしているのである(法一〇一条一項)。

したがつて、使用収益開始の日を別に定めることとしてなされた仮換地指定について従前地との利用状況等の照応を問題とする場合には、右のような制度を前提とした考察が必要であることはいうまでもない。そして、前記のように、仮換地の利用状況等の照応の有無については、一般に仮換地指定時において見通される以後の状況をも勘案して一応の照応があるか否かを問題にすれば足りることに加え、右のように仮換地指定の効力が発生しても使用収益開始の日までは相当期間使用収益できない態様の仮換地指定というものを法がそもそも制度として認めていることを考えると、このような仮換地指定については、その指定時における仮換地の状況に基づいて利用状況等の有無を判断するというのは明らかに不合理であり、その判断は、当然、使用収益開始の時点における状況を想定してなされなければならないことになると解される。このように解するのでなければ、仮換地上に建物等が存在する状況のままで仮換地指定をすることのできる道を開いた法九九条二項の規定が実際に機能する余地はほとんどなくなつてしまうことは明らかである。

五 法九八条二項の趣旨については前記三のとおりであるが、そのような規定を設けた法意の根底には、仮換地指定に際しても、できる限り従前地を使用収益していた場合に比し実質的不利益を与えないよう配慮しなければならないという考えが存していることは容易に看取することができる。このような観点に立つて考えれば、使用収益開始の日が別に定められることとなつたためそれまでは仮換地を使用収益できないとしても、もしその間従前地を従来どおり使用収益できるのであれば、そのことは当該仮換地指定の適否を考える上で相当重要な意義をもつといわなければならない。

原判決は、この点につき、被上告人が本件従前地を従来どおり使用しているとしても、それは事実上のものにすぎないのであつて法律上許容されたものではない旨簡単に判示しているが、被上告人は、本件従前地のうち本件仮換地と重複している部分については、当然本件仮換地指定を受けた仮換地として使用しているのであり(本件従前地と本件仮換地との位置関係については乙第二号証の二参照。)、重複していない残余部分については、使用収益することができる者がいなくなつた土地として法一〇〇条の二(昭和三四年追加)に基づき施行者たる上告人が管理権を有することとなつたところ、その権限に基づき被上告人に使用を許容しているのであるから(後記のとおり、原判決は、本件従前地と本件仮換地の位置関係及び被上告人が本件従前地を使用していることの法律関係について十分な審理を行つていない。)被上告人が本件従前地を従来どおり使用しているのは事実上のものではなく、右のような法律上の権原に基づくものであつて、原判決の右判示は誤りといわなければならない。

六 以上述べたように、本件仮換地の相当部分が使用収益できない状況にあることを理由に本件従前地との利用状況の照応を欠くとして、本件仮換地指定を違法と断じた原判決は、使用収益開始の日を別に定めることとしてなされた仮換地指定の場合における利用状況等の照応の考え方について正当な理解を欠いていることは明らかであり、法八九条一項、九八条一、二項、九九条一、二項、一〇〇条の二及び一〇一条一項の解釈、適用を誤つているといわなければならない。

(上告理由第二点)

原判決には、次の各点において、審理を十分尽さなかつたことに基因する理由の不備ないし理由の齟齬がある。

一 原判決が、本件仮換地のうち二〇一・二〇平方メートルが使用禁止とされた旨判示しているのは、法の明文の規定に即したものではなく、法九九条二項に基づき本件仮換地指定に際してその使用収益開始の日は別に定めることとされたことを指す趣旨と理解すべきことは、上告理由第一点の冒頭において述べたとおりであるが、原判決は右条項自体については何ら言及せず、右条項に基づいて使用収益開始の日を別に定めることとしてなされた仮換地指定の場合に、従前地との利用状況等の照応についてはどのように考えるべきか、例えば、仮換地の状況がどのようなものであれば法九八条二項により従前地との照応を考慮したことになるのか、仮換地のどの時点での状況を想定して照応の有無を判断すべきか等の重要な問題について何ら判示するところはない。

その結果、原判決の理由は、法九九条二項の規定の存在を考慮に入れずに、仮換地指定後仮換地の相当部分が使用収益することができない状況にあるということの一事をもつて従前地との利用状況の照応を否定したような構成となつており、法九九条二項の規定を踏まえた上で、原判決の認定した事実からどのような判断過程を経て右の照応を欠くとの結論に達したのか、その理由が明らかでない。

二 原判決は、被上告人が本件従前地を従来どおり使用しているとしても、それは事実上のものにすぎない旨断ずるが、本件仮換地指定後被上告人がどのような法律関係において本件従前地を使用しているのかについて十分な検討をしておらず、その結果右のように断定するについて十分な理由を付していない。

すなわち、まず、本件従前地と本件仮換地との位置関係について十分審理を尽くさなかつたため、本件従前地と本件仮換地とが一部重複していて本件仮換地指定後は被上告人はその重複部分を指定された仮換地として使用しているという事実を看過している。次に、本件従前地の残余部分の管理に係る法律関係について十分検討しなかつたため、その部分については使用収益することができる者がいなくなつた土地として法一〇〇条の二に基づき上告人が管理し被上告人にその使用を許容しているということを認定していない。

なお、本件仮換地のうち二〇一・二〇平方メートルは使用禁止とされたという原判決の判示は、これを逆にいえば、その残余部分については仮換地指定の効力発生の日から直ちに使用収益が可能であつたと認定しているとみられるが、そうだとすれば、その認定と、本件従前地全部について被上告人が使用しているのは事実上のものにすぎないと断じている前記認定とは明らかに齟齬しているといわなければならない。

三 仮に、原判決が本件仮換地について本件従前地との利用状況の照応を欠くと判示する理由が、単に本件仮換地の相当部分が使用できない状況にあるということにとどまらず、「使用開始の時期について目途がたつていない」ということに重点を置くものであるとすれば、原判決が認定したどのような具体的事実をもつて右「目途がたつていない」ことを示すものとしているのか明らかではないし、また、法九九条二項の規定を踏まえた上で、右「目途がたつていない」ということがなぜ直ちに本件従前地との利用状況の照応を欠くことになるのかについての理由が付されていない。 以上

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